2018-01-01から1年間の記事一覧

読書の手前

本を読まない人が増えたとは聞くけど、本が読めない人が増えたとはあまり聞かない。 巷の書店で売っているブックガイドや読書術の類は、すでに本が読める人のためのものであって、本が読めない人のためにはならないだろう。問題はもっと手前の地点にあるから…

生活が僕を歌っている

冷蔵庫を開けた。 卵ワンパック(残6個)、牛乳(残4分の1)、3日前に切った人参(1本分)、昨日切った茄子(1本分)、納豆ワンパック(残1)、絹豆腐ワンパック(残1)、もずく酢ワンパック(残3)、合わせ味噌ペットボトル式(半量)、めんつゆ(8割)、ポン酢小(…

自分で拾うために捨てられた言葉

好きなことを書けばいい、ということは簡単ですが、実際に何もかも自由に書こうとしても、僕の場合は何も書くことができません。何度か日記でも書いていますが、特に書きたいことというのがないのです。それでは、今書いているような文章をなぜ書いているの…

考えるな!チキンカレーを食え!

抽象的な思考ばかりしていると、目の前にある具体的な物の姿が見えなくなってしまう。別にそれが悪いことだと言いたいわけではないのだけれど、具体的な物の姿が見えなくなってしまうと、それを考えている者の姿もどこかぼやけてくるような気がする。 もちろ…

誰でもないだれかのために、どうか道にパンくずを

思い出というものが、自分の内に含まれているものでないのだとしたら、果たして私はどこから何を思い出していて、この思い出とはいったい誰の記憶なのか。 私の記憶というものは、思い出にとってみれば欠くことのできない要素であるような気がします。実際そ…

再び意味付けよと叫ぶ声の行方は

何かに呼びかけられた気がするときというのがあります。 自分の名前が呼ばれたわけではないので、あくまでも気がするというだけですが、まあそういうときは大体気のせいなので、いちいちそういうものに愚直に返事をするわけにはいきません。 ただ、それでも…

名前のないものに呼びかける

名前がわからないものに呼びかけるにはどうすればいいのでしょうか。それが近くにいるものなら、近づいていって「こんにちは」とでもいえばいいのでしょうが、どこにいるのかがわからなければもうお手上げですね。 そもそも、名前がわからないのにそれに呼び…

たとえ嘘でも、それが夢ならば

嘘がすべて暴き立てられ、本当しか存在しなくなった焼け野原のような世界で、一体誰が夢を見るというのだろうか。 たとえ嘘でもいいから、それが夢であるならば、それでも見ていたいという人だっているだろう。 みんな嘘が下手になってしまった。 みんな夢を…

読めていなくても、目は見ている

何かの文章を読んでいて、最後まで読んでもよくわからなかった、ということがあります。ただ、そういうときでも、最初から最後まで書かれていることが全くわからない、ということはありません(その場合は、わからないというよりは、読めないといったほうが適…

スターエッグ(1)

半年前に始まった体育館横の工事。どうも規模がおかしい。 学校の施設が新しく建設されるらしいが、手当たり次第に聞いて回っても、詳しいことを誰も知らなかった。先生に聞いても一様に首を振る。まさか誰も知らないということはないだろうに。 しかし、世…

イカアイス(終)

一寸先も見えない闇だ。 厨房の奥らしきところから、歯医者のドリルのような、甲高い音が聞こえてくる。 一体何が起きているのだろう。イカのアイスなど最早どうでもよかった。が、それこそ後の祭りだ。退路はすでに断たれている。 「ちょっと、袖をつまんで…

イカアイス(2)

「いらっしゃい!」 薄暗い店内に足を踏み入れると、景気のいい兄ちゃんの声が響いた。 内心びっくりしながら、そっと引き戸を閉める。外から見たら定食屋だったけど、中から見ても定食屋だった。しかも、異様に暗いと思ったら、電気がついていない。店の奥…

イカアイス(1)

何か違和感を感じながら教室の扉を開けると、案の定中は空っぽだった。 移動教室、ではないだろう。時刻は9時。HRはとっくに終わっているが、もしそうなら、移動中の級友とすれ違わないのはおかしい。 「もしかして、今日休みちゃうん。あほくさ。」 運命…

私の時間、言葉の時間(Ⅱ)

私の時間というのはなんなのでしょうか。それは今まで生きてきたすべての時間(=私の過去)を指すこともあるでしょうし、まさに今このとき、常に流れている今を指して、私の時間ということもあるでしょう。 この時間というのは、人それぞれ全く違うように思え…

私の時間、言葉の時間(Ⅰ)

とある文章を読んでいて、自分の読み方が言葉の示している速さを追い越しているな、と感じて以来、私と言葉の時間について考えています。書こうとしてみても、あまりにも書けないので、なにがそんなに書けないのかを書こうとしていますが、たぶん、何も言え…

溶けだしたものが 染み込んで ぐしゅぐしゅたてる 音が聞こえる 眩しくて 浮かぶ身体が膨らんで 悲鳴をあげた午後は暗い いつまでもこうしていたいと 雨の中で君が探す傘は 黒から青へと移りゆく ほどけたさびしさよ 一番きれいなのは君だ

わからないから、川に向かって叫ぶんや

相も変わらず、わからないことが多い世の中ですね。皆様は無事にお過ごしでしょうか。無事であれば結構、無事でなくてもそれはそれで結構、そんなことには頓着せずに、季節は春を迎えようとしているようです。それは少し寂しいことではありますが、その寂し…

今すぐ言葉にしたくて、石に躓いて泣いた

今すぐ何かを言葉にしたいときというのがあります。そういうときは、その何かを書こうとするわけですが、それがどんなものなのかは私自身わかっていないので、書いてみることでその形や感触をわかろうとするわけです。だから、書いているものが何かわからな…

しずかな時 リズムを刻む心音 青いい影ひとつ 自身に問う その荷を背負い その荷を運んでゆくか 忘れられ ただそこにあったのだ 決して戻らぬ 彼方へ向かう憧憬が 道におかれた物へ 眼差しをむける人 道におかれた声へ 耳をかたむける人 おまえの言葉に 夢は…

一度も見なかった夢を、私ではない誰かが思い出す

私が一度も見なかった夢を思い出すのは、私ではないのかもしれない。そんな考えが頭をよぎりました。言葉にすると、当たり前のことかもしれません。別に、その誰かは誰だっていいです。人間でもいいし、宇宙人でもいいし、猫でも犬でも鳥でも、石ころでもい…

殴られに行くと当然のように痛いけど、そこでUFOと邂逅する

本を読むことについて考えています。 読書をするということは、その語り手に殴られに行っているのではないか、と思うときがあります。もちろん、著者が人を殴ろうと思って語っているわけではありません(そういう著者もいるでしょうが)。あくまでも、私が殴ら…

残影

書くなといわれ わたしは書いた 手の届く広さで 微かな音を聞く 手放したのは言葉 吹き抜けたのも言葉 開いたてのひらを じっと見つめ その痕跡を いつかの景色 いつかの声 思い出せ 忘れるために 刻み込め 手放さないため わたしを見ている あなたのために …

覚めない夢、どん底としての今

永井均さんという哲学者の本に『私・今・そして神』というものがあります。その中に、夢を思い出すことについて書かれた箇所があるのですが、そこを読んでいて、一度も見ていない夢を思い出すことについて書きたくなったので、少し長くなりますが引用してみ…

言葉の旅人、しかし三流

もともと、私は何か書きたいことがあって書くということがない人間です。じゃあ何故書いているのかというと、たんに書かずにいられないので書いているというだけで、何か主張したいことがあるわけではありません。どちらかといえば、書くこと自体が目的で、…

ぼんやりしていたことに はっと 気がついた ここはどこだろう どれぐらい こうしていたのか 目が覚めると 知らないところにいて 知らないひとたちと 知らないことをしている あれ 次はなにをするのだろう 何もわからず わからなくて 焦りが 世界を白くする …

言葉

言葉に助けられ 言葉に支えられ ここまで歩いてきた ずっと探している言葉 わたしだけの言葉 どれだけの言葉を写せば わたしの言葉を見つけられるのか 言葉は訪れ去っていく 内から湧き出る言葉など 何一つとしてないわたしに 誰かが訪れ去っていく (待って…

わからないだけで書く

何かを書こうとしているとき、何を書こうとしているのか、僕自身よくわかっていません。そもそも書きたいことなんて特にないのです。誰かに見られたところで、良くも悪くも何の影響も与えないであろう文章を、なぜ書こうとしているのかなんてわかるわけがあ…

痛みで涙を流すとき それはあなたの痛み わたしは涙を見つめる 雫は表現の手段 痛みそのものはあなた あなただけのもの わたしも涙を流す それはわたしの痛み 痛みは伝わったのではない 人の痛みを痛むなど どうしてできるのか! 痛みを表現できるのは 一人…

夜を超えた向こう側にある夜に行こう ねえ ずっと夜だったらいいのにね 朝は嫌い 起きられないんだもの ぴかぴか光るし きっと目にも悪いよ 夜は優しい お月様は眩しくない 雨が降ってきたけど平気 歩こう ねえ この先には朝があるのかしら あの雫だって 大…

嘘を吐く

嘘から出たまこと、という諺があります。嘘を吐いたつもりで話したことが本当に起こった、という状況を表した言葉です。 例えば、有名な狼少年の話があります。退屈しのぎに、狼が来たぞと嘘を吐いて村の人たちを困らせていた少年が、いざ本当に狼がやってき…