忘れ物の眼差し

 忘れ物が目立つようになった。

 これは私の忘れ物というわけではなく、他人の忘れ物を目にする機会が増えた、ということなのだけど、自分で気づいていないだけで、実はたくさんのものを忘れている可能性はある。

 可能性はある、というより事実たくさんのことを忘れながら生きているに違いないのだが、記憶を忘れるのと物を忘れるのは、やっぱり違うのだと思う。

 最近は、見た夢を起きたら忘れていることが多い。見たものを覚えていないのに、見たことは覚えているのが不思議な感じもする。考えてみれば、前の晩の夕食も時に定かではないことを思うと、不思議でも何でもないような気もするが。

 生きているのだから、きっと食べているのだろうと推測出来る様に、目覚めたのだから夢は見ているのだろう。

 夢は物ではないから、夢を忘れることを忘れ物をした、とは言わない。駅やお店や何かだと、忘れ物を集める場所がある。それにしてもいつまでも置いておけないのだから、処分されるか警察に届けられるのか。それでも、持ち主が現れない場合、やっぱり最終的にはどこか知らない場所に捨てられてしまうのだろう。よく知らないけど。

 とはいえ、例えば夢の遺失物管理センターなるものがあったとして、私はそこで自分の忘れた夢を取り戻せるのだろうか。そもそも、どうやって夢を確認するのか。「こんな感じの夢が届いてませんでした?」と聞こうにも、肝心の内容が忘れ物なのだから、どうしようもないのかもしれない。

 自分で見つけられないなら、後は見つけてもらうしかない。忘れた物から向けられる眼差しに対して、せいぜい「にんにく、にんにく」とでも呟く。