押入と時間

 狭いところが好きでした。学習机の下、押し入れの中、クローゼットの中、屋根裏、空の浴槽に蓋をして入っていたりもしました。暗いところ、影のあるところ、日の当たらないところ、そういう場所に親近感を覚えていたような気がします。

 僕自身のことなのに、気がしますというのもおかしいかもしれません。でも、昔の自分と言うのはどこかよそよそしいもので、繋がっているようで繋がっていない、自分のようで他人であるような変な感じがします。そもそも、思い出しているその当時の自分というのは、今この思い出している時の自分と本当に一緒なのか?という問題はあると思います。本当に一緒ですか?僕にはよくわかりません。

 狭いところが好きだったのですが、特にお気に入りだったのが自宅の押し入れの中です。スタンドライトを引っ張ってきて、よく漫画を読んでいました。押入の襖を開けると窓が見えるのですが、気がつくと、青かった空がオレンジになったり、真っ黒になったりしているのが、とっても不思議でした。僕の中では、そんなに時間が経っているつもりがなかったのです。

 一般に、楽しい時間は速く過ぎると言います。あれは本当なのでしょうか。そういう時に、時間は過ぎているのでしょうか。そういう時は、時間なんてないのではないか、と思う時があります。もちろん、僕が意識していなくても、時間は過ぎていきますので、そういう意味で時間はあるのですが、動画を見ていて途中をとばしたような感覚、に近いかもしれません。とばした部分は、過ぎたのか、なかったことになったのか、それともそれは時間ではない何かになったのか。

 もし願わくば、今もどこかで誰かが、押入の中で時間を忘れて何かに没頭していて欲しいとは思います。それは僕なのかもしれませんが、きっと違う人でしょう。

 

2017.7.18