イカアイス(2)

「いらっしゃい!」

 薄暗い店内に足を踏み入れると、景気のいい兄ちゃんの声が響いた。

 内心びっくりしながら、そっと引き戸を閉める。外から見たら定食屋だったけど、中から見ても定食屋だった。しかも、異様に暗いと思ったら、電気がついていない。店の奥にある厨房には、表の光が全く届いていないように見える。

 一体、ここはなんなんだ?一瞬でイカのアイスなんてどうでもよくなった。やはりファミレスにするべきだったのだ。

「最初にご注文をお伺いします!」

 奥の暗闇から元気のいい声だけが聞こえる。若い男の声だとはわかるのだけど、姿が見えないのは不気味だ。私たち二人以外に客はいないようなので、余計に心細い。

「イカアイスを二つ下さい。」

「はいよ!イカアイス二丁!」

 友人が注文すると、元気のいい復唱が返ってきた。戸惑う私を尻目に友人は席に座る。というか、イカアイスは本当にあるのか。

 恐る恐る、私も向かい側に座った。こういうとき、物怖じしない友人を持ったことに感謝するべきなのかもしれないが、そもそも事の発端が友人でもあるのだ。きょろきょろしながら、楽しそうに周りを見回しているのが腹立たしい。

「どしたん?怒ってんの?」

「いや、正直イカアイスは気になったので、それに関しては怒っていないのだが、ちょっとこの店は怪しすぎないか?

 兄ちゃんに聞こえて機嫌を損ねた場合、後々よくないことが起こりそうな気がしたので、私は声のボリュームを落とした。

「そう?風情があってええやん。」

「そうか、きっと君は大物になるよ。」

「もう、誉めてもなんもでえへんで!」

 友人に肩をばしばし叩かれながら、もうこの手の怪しい誘いには決して乗るまい、と私は決意を新たにする。

「でも、何が出てくるんやろ?ほんまに楽しみやわ。」

「どうせ、アイスのイカ添えか、イカ味のアイスだろ?」

「どっちにしても食べたい!」

「後の祭りにならないことを祈るよ。」

 私は実際に祈ってみたが、どこにも届いていなさそうだ。

 突然、きいきいという軋んだ音が聞こえてきた。驚いて入り口を見ると、引き戸の向こう側で、シャッターが降りていっている。

「おお!サプライズやな。あんた今日誕生日なんか。」

 友人がアホなことを言っている間に、シャッターは完全に降り、窓一つない店内は暗闇に包まれた。

(続く)