同じものを描写する

 いつも同じものを見ているのだと思います。それが何なのかはよくわかっていません。知りたい気持ちはあるのですが、理解したいわけではありません。手で触れたり、香りを嗅いだり、味わったり、声を聞いたり、そういうことができればいいのですが、どうも見ることしかできないようになっているみたいです。片思いのようなものかもしれません。空気のようなもので、当たり前のようにあるから、そんなに気にすることもなかったのですが、やっぱり気になっていて、ちょこちょことちょっかいはかけてみながら、いつも様子を見ています。

 別に人の話をしているわけではありません。例えば、文字で何かを表現しようとするときに、目線の先で常に見つめているものです。言葉にしていることはその都度変わるのですが、言葉を用いて説明したい根本というのは全部一緒で、そういう意味において、どこを見ていても視界に引っかかるもの、地平線の先から気配を出し続けているもの、何かそういうものがあって、そして、そこから目が離せないのです。

 目が離せないのですが、ずっとそれを見ているとおかしくなってしまいそうな気がするので、怖くなって目を逸らしてしまいます。もしくは、相変わらず見えているのですが、見えていないふりをする。そんな風にしたところで、何からも逃げられないんですけどね。逃げる必要というのは全然なくて、怖がる必要もなくて、ずっと見えているのものなのですから、やっぱり何度でも知りたくなるわけです。好奇心ですよ。

 でも、目を凝らして見つめているものは、見ているだけでは永遠にわかりそうもないものです。恐らく、触れても嗅いでも食べても聞こえても、何をしたってわからないものなのですが、自分の身を差し出して、ちょっとずつ描いたり、色を塗ったり、書いたり、直したりしていくと、部分的には見えてくるものなのだと思います。ちょこっとずつ痛い思いをして、手を替え品を替え、同じものをしつこくしつこく色々な角度から小突いてみる。

 何かわからないものに、もし意味を与えることができるなら、それはそういうことを続けていくことだけだと思います。