柵の向こう

 柵と言うのは危ないところに建てるものです。でも、子供と言うものは危ないところが大好きで、とにかく囲われているところがあったら入りたがるし、自分が囲われたら出ようとします。そもそも、自分のことを考えると、危ないところというのは面白いところであると考えていたふしがあり、柵と言うのは境界ではなく、目印でしかなかったのかもしれません。

 よく鍵を忘れる子供でした。よく落とすとかではなくて、持っていくのを忘れて家に入れないことが多かったです。僕が昔住んでいたマンションは角部屋で、玄関の横がベランダと繋がっていました。もちろん、落ちると危ないので柵はあったのですが、それをよじ登るとちょうど子供が通れるくらいの隙間があったのです。そして、僕は一度開けたベランダの鍵も閉めないことが多かったので、玄関の横からベランダに行くことが出来れば、家に入れるのではないか!と思い、自宅に侵入したことがあります。親が返ってくるまで外で待っているのは、とっても退屈だったので。

 柵をよじ登って外壁の側に出ました。足場は十分にあったので、後はしっかりと柵を持ちながらベランダまで行くだけです。しかし、道中気が付いたのですが、ベランダの外側には、柵よりも低いところに子供が座れるくらいの足場がついていました。「きっとここに座って見る景色は綺麗だろうな」と思って(柵に張り付いていると、景色は背中側で見れなかった)、試しに座ってみます。

 正直、景色自体は見慣れたもので、そんな綺麗なものではなかったです。近所の景色ですからしょうがないですね。でも、空中に足を放り出して、空を見ているのは気持ちよかったです。高いところから下を見ると怖いですが、高いところからより高いところを見ると、少し世界が広がったような気がします。しばらくぼけっと空を眺めていましたが、それに飽きたのでベランダに辿り着くと、案の定鍵が開いていたので家に入ることが出来ました。

 特に理由もありませんが、今では高いところは苦手です。遊園地にある観覧車は全部横に回したらいいと思っています。きっと楽しいでしょう。